「令和の専業主婦」を専業主婦が聴き、読んで思ったこと

 

朝日新聞ポッドキャスト メディアトーク3月29、30日分のエピソードにおいて同じ朝日新聞のニュースサイト、withnewsの連載「令和の専業主婦」が取り上げられていた。

 


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専業主婦は認められていないのかも…

 

私は専業主婦である。
周りに専業主婦の人は結構いる。

子の通う園では、働く母親も沢山いる。
父親が送り迎えや行事参加をしているのも当たり前に見る。
私はその姿を見て、良い時代だと心から思う。
同時に、私の選んだ専業主婦という生き方は今の時代認められていないんじゃないかと思ってしまう。誰に認められていないのかは分からないが。
今後も、専業主婦の立場は悪くはなっても良くはならないのかもしれないとも思う…

多様な生き方の中に専業主婦は入っているのか?と不安に思う。
だから、そういう問題提起(世の中は多様性を謳いつつバリキャリしか認めていないのでは?)をポッドキャストのエピソードの中で共有してくれたのは嬉しかった。

ポッドキャストの放送は、専業主婦の立場ではない人が話すという場でありながらも、全体的に専業主婦に配慮しようという気持ちは感じられた。
育休中に家事育児に専念していた時期に専業主婦のような生活をしていたと話しつつも、育休中の母親と専業主婦の母親では立場が全く違うことを伝えてくれていた。
実際、帰る職場、会社に席を用意して待たれている立場の育休の会社員とそれを持たない専業主婦は全然違うと専業主婦は思うだろう。もちろん専業主婦全員というわけではないだろうが…


専業主婦は働いてお金を稼ぐという成人女性にとって中心となるべき最重要事項とされるものから離れて生きている。
専業主婦の生きる場所だって社会のはずなのに、社会から外れて生きているとされる。それも、自ら望んでそうしていると思われる。
専業主婦はそのことに後ろめたさを感じがちだ。
でも、ただ臨んだわけではなく、ほとんどの専業主婦には専業主婦になった理由がある。

「令和の専業主婦」の連載で取り上げられた専業主婦たちにもそれぞれの理由がある。

さらに、専業主婦とはいえ最初の漫画の人は漫画家として作品を発表していたり、話題になった大学院生の方だったり、以前は専業主婦だったけど、今はパートをしていたり…と専業主婦とはいえ家事育児のみではない方が取り上げられている。
PTAの役員の活動や保護猫の活動をされている方もいる。

私のように家事育児以外に仕事をしていない専業主婦も沢山いるだろうが…

私が専業主婦である理由

 

私が専業主婦である理由を説明するとき、子が障害児であるというのが一番通りが良いかもしれない。
しかし、同じ障害児を持つ母親でも働いている人はいるのだから、それだけを理由にするのは違うと私は思っている。
子の状況と、出産前からの私の状況や、私のさまざまな面における能力を考えたときに、働くことが難しいというのが私の専業主婦である理由だ。
でも、たとえ同じ状況でも、夫がいなかったり、稼ぎが少なかったりしたら、フルタイムは難しくても短時間でも働かざるを得ないだろうし、理由なんて結局はなく、恵まれた女の選択でしかないのかもしれない。
とはいえ、今の私の状況で働いても、家族も私も辛いだけなのも明らかだ。そういう状況があり、私は専業主婦をしている。

やっぱり、専業主婦は認められていないのかも…

夫婦ともに家事育児をしながらフルタイム労働をするというのが現代の正しい対等な夫婦関係であるというのが、今よく見る考え方だ。
しかし、実際、夫婦ともに家事育児をしながらフルタイム労働をするというのは決して簡単なことではなく、状況や能力的にも感じ方は異なる。もちろん、子の状況や個性もある。
それでも、本当に経済的に厳しかったら何が何でも働かないといけないのだろうから(本当は国から補助を受けられたら良いのだろうし、受けている人もいるだろうが、そうもいかない場合も多いだろう)、専業主婦(夫)という選択肢が上がること自体が贅沢な悩みなのかもしれない。

専業主婦(夫)の人はなりたいと思ってなる人もいるだろうが、自分の置かれた状況の中で最善の選択をしたら専業主婦(夫)だったという人も多いだろう。その最善の選択をするとき、選べる選択肢が少ないことも多いだろう。
それでも、ただ専業主婦(夫)であることが居心地悪く感じるし、なんとなく世間に認められていない気持ちも感じるが、そんな悩み自体が贅沢で「暇な専業の悩み」でしかないのか?とまた悩んでしまう。
そういう専業主婦(夫)は多いと思う。

 

ポジティブに取り上げられにくい専業主婦


今の時代、専業主婦がポジティブな意味でメディアに取り上げられることは本当に少ない。逆に母である女性が専業主婦でないことが称賛されることが多い。
昭和平成アニメであるドラえもんクレヨンしんちゃんを見て専業主婦である母親キャラがいると私は同じ立場の人がいて嬉しくなるが、そういうのは古いと言われ、働いている母親を出すべきと言われているのもネットなどで見る。
専業主婦母親キャラはダメなのか?と私は思う。
(専業主婦母親しか出てこないのだったら問題だろうけど、最近はそういうこともないだろうし)

実際、専業主婦はダメだと思っている専業主婦もいる。
働いていないのだから夫よりも立場が低くて当然という人もいる。
私は夫が稼いできたお金は家族のお金と思っているが、夫の稼いできたお金は夫のお金で、専業主婦である自分が好きな物を買うことに肩身の狭い思いをしている人もいる。

逆に専業主婦であることを誇りに思っている人もいるだろう。立場のある夫を様々な面で支えたり、社交の場に出たりすることが求められている専業主婦もいる。そういう役割を果たすことで、世間から認められている人もいる。


一般化して語ることのしにくい立場である専業主婦。専業主婦同士でも話が合うとは限らず、同じ専業主婦でもそれぞれの状況や考え方は違う。

専業主婦の中には、自分はこのままで良いのかと自問自答したり、誰かに認められたいと思う人も多い。
しかし、専業主婦であることに外から何か言われる筋合いはないし、認めてもらう必要もないはずだ。
専業主婦は「社会人」とは呼ばれないが、社会にいて役割を果たしている人だ。少なくとも家族という社会の最小単位の中では役割を果たしている。

 

「令和の専業主婦」で気になったこと


「令和の専業主婦」連載は専業主婦に寄り添い、その生き方や葛藤を丁寧に描く良い連載だと思う。
ただ、疑問に思った点が二つあったので書く。

 

①大学院に行った主婦の方を取材した記事における、跡見学園女子大学の石崎裕子准教授の言葉

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石崎氏は現在の専業主婦を「助走期間」と位置付けている。

「専業主婦の間にこれからのキャリアを模索し、いずれは家庭以外の場所にもフィールドを広げていきたい。長い人生の中で、専業主婦という経験を次のステップへの助走期間として意識することに、(主婦である)本人たちも自覚的だと思います」

石崎氏の言葉通りに受け止めると、専業主婦は未来のステップのために助走している存在で、現在は本番ではない存在みたいになってしまう。

「その通り。今は助走期間だ」と思う専業主婦もいるだろうけど、そう思わない人も結構いると思う。
「本人たち」って私は専業主婦ですがその「本人たち」の中には入りませんけど…専業主婦でもない人が勝手に代弁しないでくれませんか?と思ってしまう。

それこそ、私みたいに家庭の外で輝こう、キャリアを築こうと頑張ったけど能力的、状況的にどうしてもダメで、家庭内の専業主婦という役割に居場所を見つけ、「ここでなら私は跳べる」と思えた人もいるだろう。私も、今後はまた外で働いたり別の活動をする可能性もあるけど、今も助走期間ではなく人生の本番だと思っている。

専業主婦にも色々な人がいて、将来家庭の外にフィールドを広げる人も広げない人もいると思うが、それでも現在、家庭の中で専業主婦という立場を得ているのだし、それだけで跳んでいるんだと思う。助走期間である場合もあるかもしれないが、その間も走っているだけではなく、跳んでいるのでもあるのだと思う。

 

➁(ポッドキャストで称賛されていたけど)すべての専業主婦が能力があるわけではない…

ポッドキャストの後半の放送で、主婦がまた外で働こうと思ったときに専業主婦時代のことが「何もしていない」ことになるという問題が取り上げられていた。
それに対して、話者である朝日新聞の記者の人たちはいかに専業主婦が家事能力や調整能力、嫌な人とも付き合う能力があるかを取り上げ、それは就職しても役立つ能力だと賞賛する。

確かに専業主婦でそういう能力を発揮している人もいるだろうけど、人によるのでは…と思ってしまった。
専業主婦とはいえ苦手なことは夫や他の頼れる人に頼む人もいる。私自身、あまり家事育児は得意でなく他の人に頼ることもある。


「社会」で働き賃金を得ることにいろいろな面で困難を感じ、そのときに夫となる人と出会うことで専業主婦となる人がいる。
私も違う部分もあるが、そういう理由もあった。他の人のように動けない、働けないという葛藤がずっとあり、正社員だった頃に鬱病になって結婚と同時に辞めてパートになった。その後、妊娠出産を機に専業主婦になった…仕事をすることに困難を感じていなければ、おそらく子の障害の診断が出るまでは正社員を続けていただろう。
もちろん、本当に経済的に追い込まれていればパートや専業主婦を選択など出来ない、動けなかろうが病気があろうが正社員で働くしかなかったのだろうから、ただの甘えだったのかもしれない。でも、私は恵まれた環境にあり、それを選択できたのだから、自分を守るために選択した。

外で働くときに求められるレベルで動けないとしても、専業主婦であれば自分の裁量でできるし、できないことは他の人に頼ったり、放置できるなら放置することもできる。雇われて働くとなるとそうはいかないし、好きに休むこともできない。

専業主婦であることで何とかやっている専業主婦のことを取り上げてしまうと、アンチ専業主婦みたいな人を喜ばせてしまうだろうし、専業主婦がなかなか雇われないという現状を変えようとする際に障壁となってしまう。
実際、この企画は今後専業主婦を積極的に雇おうとしている企業を紹介しようとしているようなので、そのためには取り上げる専業主婦は有能な専業主婦であるべきだろう。

社会に認めてもらうために、有能な人のみを取り上げるというのは、他のカテゴリーの集団でもやっている。専業主婦もそういう方針でいかないと全体の立場が良くなっていかないというのはあるだろうから、その方針は間違っていないと思う。

でも、専業主婦は有能な人ばかりではないし、そういう人も「何もしていない」訳ではないし、有能じゃなかったらアンチ専業主婦の人たちによる「専業叩き」の対象になっても仕方ない、というのも違うと思う。

そもそも(言い方が悪いが)無能な人、無職の人に風当たりが非常に強い社会で、その中で「仕事ができる/できない」で評価されることから逃れているように見える専業主婦(夫)が叩かれてしまうのは自然と言えば自然だ。

難しいかもしれないが、無能な人、無職な人に対して世の中の見方を変えるべきのような気がする。
もちろん、それは「令和の専業主婦」でするようなことではないが…

ポッドキャストの中の2人の女性記者が専業主婦の人はすごいと言っているのを聴いて、そういう人ばかりじゃないんだけどな…と思った。

確かに、能力のある人でも専業主婦の復職というのは困難だと思う。
それは採用する側の専業主婦を見る目(採用に消極的)も理由だろうし、主婦業(家族の都合で動かないといけないことが多い)との両立が難しいというのもある。それを専業主婦の人自身が持つ能力だけで何とかするのは大変だ。
そこを助けるような支援は必要だと思う。

ただ、支援があればできる人もいるし、(本人の抱える困難などで)できない人もいる。それだけの話だ。

 

感謝

今も昔も、専業主婦(夫)で生きてくことにはリスクもかなりある。
できるなら、今の時代に合っている仕事も家事も育児も夫婦ともに行う共働き夫婦の方が良いに決まっている。
それでも、様々な状況の中で専業主婦(夫)を選ぶことになった人はいるのだから、そういう人についてのメッセージを発信することは必要だと思う。

専業主婦という存在にスポットライトを当ててくれたことが嬉しい。
感謝したい。